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櫻井健一

相続手続とは(その3 遺言書)

 前回の記事の中で、遺産分割協議は全員が納得しなければ成立しないと書きました。

 でも、特に相続人が多い場合などは、全員が納得することはなかなか難しいです。

 話し合いがまとまらないと不動産の名義変更ができませんし、銀行の預金は凍結されてしまい引き出すことができなくなります。

 ちょうど今年7月から一部を払い戻せるように法律が改正されましたが、あくまでも一部だけです。

 それと遺産分割で兄弟や親族間に争いが起こって人間関係が険悪になってしまう事もあります。いわゆる「争族」というやつです。

 争族を防止する最も有効な方法は遺言書を作っておくことです。

 遺言書の方式は3つあります。


1 自筆証書遺言

 自分の手で全てを書く遺言の方法です。

 費用もかからず手軽にできる方法ですが、内容のチェックの機会がないことがデメリットです。

 遺言は形式が法律で厳格に決まっています。その形式に合っていないと無効になってしまいます。

 来年7月10日から自筆証書遺言を法務局で預かってくれる制度が始まります。

 これが始まれば、法務局である程度内容のチェックをしてくれるようですし、検認(遺言を残した人が亡くなった後、家庭裁判所に相続人全員を集めて遺言の確認をする手続)をしなくていいため、今後は自筆証書遺言のケースが増えてくるのかもしれません。


2 公正証書遺言

 公証人が本人に内容を確認して遺言の作成をする方法です。

 公証人のチェックが入るので確実に効力が発生することと、公証役場で遺言書の保管をしてくれるため紛失の心配がないなどのメリットがあるため、現在の方法では一番お勧めです。ただ、一番費用がかかる方法でもあります。


3 秘密証書遺言

 遺言をする方が遺言書を封書に入れて封印をし、公証人の前で証人と本人が署名・押印をする方式の遺言です。

 内容を誰にも見られたくない場合はこの方法を使ってもいいかもしれませんが、誰にも内容のチェックをしてもらえないと無効となるリスクがありますし、保管は自分でしなければならないためほとんど利用されない方法です。


 遺言書を作る際は内容を専門家に見てもらうことをお勧めします。

 形式を整えるためという事もありますが、遺言内容は相続税や遺留分の問題など考えるべきことがたくさんあるからです。

 

*遺留分の問題

 では遺言書さえ作っておけば全てその通りになるのでしょうか?

 例えば自分のお父さんが見ず知らずの愛人とかに自分の財産を全部あげるという遺言をしていたとします。

 遺言が有効だったとしても少しは自分やお母さんに取り分があってもいいんじゃないの、と誰しも思うでしょう。

 たとえ有効な遺言があっても遺族がそれに対し異議を言うことができ、その取り分の事を遺留分と言います。

 上のケースでは財産の半分は愛人のものですが、残り半分は遺留分として遺族にくださいと言うことができます。

 ただし、この遺留分の主張は遺留分の侵害がされていることを知ってから1年間以内に言わなければ主張をすることができなくなります。


*遺留分を侵害する遺言

 それじゃあ、誰か一人に全部の財産をあげるという遺言をしても、遺留分の主張をされれば意味がないな・・と思うかもしれません。

 そんなことはありません。

 例えば2人いる子供のうちの1人に多くの財産を渡したい場合

  遺言がない場合   

    A 1/2

    B 1/2 (お互いが全部の権利を主張した場合)

  となるのに対し

  全部をAにという遺言がある場合

    A 全部

    B なし

  Bが遺留分の主張をしたとしても・・

    A 3/4

    B 1/4

 Aが受け取る分が1/4増えることになります。

 そして、先に触れたように遺留分は1年経つと主張することができなくなります。

 実際に遺留分の主張をする方は10人のうち1人か2人くらいで大抵はスルーです。

 そういう事情で大抵のケースでは遺言の内容通り遺産の配分がされます。

 また、遺言を残しておけば1年程度で白黒決着がつきますが、遺言がない場合、話し合いで決着がつかないと、遺族同士が裁判所で対決する事態になってしまい、2~3年かかることもあります。


 争いを避けるために遺言書はとても有効であると言えます。


 次回は(いつになるやら・・)特に遺言をしておいたほうがいいケースを解説したいと思います。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

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